ご存知でしたか? 信夫山ほど、恋の歌が多く詠まれた山はありません。平安の昔から、みちのくの信夫山は歌枕として数多く登場しています。
「きみ恋ふる 涙しぐれと降りぬれば 信夫の山も色ずきにけり」とか「恋詫びぬ 心のおくの忍ぶ山 露もしぐれも 色にみせじと」など、平安の貴族は“しのぶ恋”“忍び泣く”“しのんで通う”“耐え忍ぶ”などの恋の思いと、みちのくの響きを重ね合わせて、憧れの信夫山のイメージを心に描いていたのでしょう。

 歌枕とは、和歌を詠むときに定番として出てくる名所のことですが、信夫山を読んだ和歌は実に90首もあり、全国的に著名な歌枕でした。面白いのは、信夫山の羽黒神社の下に、有名な「名月の碑」がありますが、そこには「名月や ものに触らぬ 牛の角」と彫られています。「名月の月の明るさに、牛も角を触らず歩くことができる」と書いてあると思うと、さしたる名歌とは思えませんね。しかし、それは勉強不足で何と「牛の角」とは、平安時代の恋の隠語でした。すると、この歌の意味は、「月の明かりをたよりに、誰にも会わずに、あなたのもとへ忍んで行きます」という意味になるのですね。深い!
歌を読んだのは、信夫山御山部落の名主、西坂珠屑(しゅせつ)という俳人です。信夫山は文化の山でもあったのです。